子どもの頃の私は、
雨の夜に窓を少し開けておくのが好きでした。
中学2年までとても古い家に住んでいたので、特に雷雨の日はトタン屋根や洗濯場に降り注ぐ雨粒の音が心地よく、布団にくるまりながら聴くと不思議と落ち着いたのです。
大学生になってから、それが「ホワイトノイズ」と呼ばれるものだと知りました。人が母親のお腹の中にいたときに聞いていた音に似ているため、本能的に安心感を覚えるのだそうです。昔のテレビの砂嵐を聴くと赤ちゃんが泣き止む――あれと同じですね。
アーティスト・Zimounはこんなことを言っています。
「人間は静寂のなかに音を聞き、ノイズから静けさを感じるものです。私はその相反性に興味があるのです。」
――Zimoun
私の興味や建築思想も、まさにそこにあると言って間違いありません。
「ホワイトノイズをどのように建築に落とし込むか?」
これが私のこれまでのベースであり、今後もシトラスのテーマです。
雨を含め、下記のような手法を我々は取り入れています。
①素材
ホワイトノイズを具現化したような絵画として、ジャクソン・ポロックの作品がそれにあたると考えています。
写真家ならアンドレアス・グルスキーが近いかも。
キャンバスいっぱいに広がるザラザラとした感覚が、逆に落ち着きを感じさせる。建築に置き換えれば、塗り壁のような仕上げがそれにあたるのかもしれません。
②色
人間の視覚やカメラの露出計が「標準的な明るさ」と判断する反射率は約18%とされ、露出設定の基準になります。
そのため「地球上のすべての色を平均すると18%グレーになる」とよく言われます。
この18%グレーは、コンクリートの色に近い。
街中の打ちっぱなしコンクリート建築に、力強さと同時に落ち着きを感じるのは、このためかもしれません。
木目調の仕上げにおいても少しトーンを落としてみるなど調整するだけでも変わります。
③音
現代の家では外の音を聞く機会が少なくなっています。
前述の屋根に降る雨の音も、遮音材によって消され、窓の遮音性能も日々向上しています。
それでも窓を開ければ、草木が風に揺れる音や、ウッドデッキに当たる雨粒の音を楽しむことができる。
そうした体験を組み込む設計こそ大切ではないでしょうか。
私は普段からこうしたことを考えつつ設計をしています。
お施主さんの要望に合わせながら、これが「いかに穏やかな暮らしと結びつけられるか?」を日々提案しています。
そして家が完成した暁には、お施主さんと一緒に雨の日を楽しんでみたい。
雨の日には窓を開けて。
秋山 拓也
Atelier CIT